『 踊って頂けますか? ― (2) ― 』
え〜〜〜〜 まず お話の続きの前に 主人公たちがおたおたしている
< グラン・アダージオ > について さらっと解説します☆
グラン・アダージオ とは ―
『 白鳥の湖 』 の第二幕で踊られる ジークフリート王子と
オデット姫の パ・ド・ドウです。
えっと 『 白鳥〜 』は 全4幕 でして 大雑把に言えば
1・3幕 が 人間界の話 2・4幕が 白鳥達の世界での話 です。
ですから 出演ダンサーが 「 ワタシ 今回は2・4〜 」といえば
白鳥たちを踊る ということで 「 1・3 なの〜 」 なら
貴族の娘たちやら各国の踊りを担当、ということです。
オデットさんは 普通 1・3幕には登場しません。
三幕で 影 としてでるけど別のヒトがやることが多いです。
オディール ( 黒鳥 )としては踊りますけどね。
( 筆者は 全幕通しで出演したことがありますが
早変わりの連続〜〜〜 で もうヘトヘトでしたにゃ・・・ )
さて 話題の グラン・アダージオ ですが。
これは 形式的には グラン・パ・ド・ドウ ではなく
二人が踊るアダージオだけ そして 所謂超絶技巧的なテクは
ありません。 しかし! 長い〜〜〜〜 そして
個人のワザとは違う パ・ド・ドウのテクニックが必要です。
そして これは 出会ったその日から恋の花が咲いちゃった王子サマ と
悪魔の呪いで白鳥にされて 夜の間だけニンゲンに戻れる白鳥族を
統べる お姫サマ との 愛の踊り なのです。
パ・ド・ドウ は 文字通り < 二人の作業 >。
サポートやリフトは 二人の共同作業 で どちらかが引っ張ったり
チカラ尽くで持ち上げたり 回したりしているのでは ないのです。
つまり 二人のイキが合わないと・・・ 大変★★★
そして上手く噛み合った時の踊りは それぞれの力量以上の
ものとなり もうさいこ〜〜〜♪ なのです。
あのですね。 クラシック・バレエ って ただひらひらしてる のじゃ
ないのですよぉ〜〜〜〜〜〜 舞台 観てくださあい ('◇')ゞ
************************
ふ〜ん ふんふん♪
ジョーは 上機嫌でバス・ルームから戻ってきた。
「 あ〜〜 さっぱり〜〜〜 うん? 」
バスタオルでがしがし髪を拭きつつ 寝室のドアを開けた のだが・・・
「 う〜〜〜ん ・・・ ここで し〜っかり支えてくれれば
パンシェ〜〜〜 も ギリまでやれるわねえ
よ・・・・っと 〜〜〜 」
彼の愛妻は ベッドの前で高々と脚を後ろに上げている。
パジャマのズボンは上にたくしあがり 白い素脚がくっきり。
だ だはは 〜〜〜〜
・・・ これは お誘い か?
そりゃ 彼は彼女の夫であるから 細君の <白い脚> を
見る機会は多々あるわけだし ソレに触ってもキスしても
まったく構わない のだれど。
予期せぬ時に 予期せぬ場所で 目の前に現れれば ―
やはり どっきり♪ なのである。
「 う わ・・・?? な な なんだ〜〜〜 」
「 ふんふ〜〜ん ・・・ と。 あら ジョー
お風呂 いい感じに熱かった? 」
「 え ・・・ あ ああ 風呂? あ うん よかったよ 」
「 そう? よかったわあ〜〜 もう休む? 」
「 あ え〜とぉ ・・・ き きみは? 」
「 う〜ん もうちょっと自習しててもいいかしら
音はたてないようにするから 」
「 ・・・ じ 自習?? あのう〜〜〜?
その・・・ 脚をあげる練習なのかい 」
「 へ??? ・・・ ああ そうじゃなくて
あのね こんどの公演の〜〜 振り付けを確認していたのよ 」
「 あ ああ そっか・・・ ( ちょっとほっとしたけど
ちょっと残念な気分・・・・ ) 」
「 あ そうだわ! 実はね〜
是非是非ジョーに聞いてみたいことがあるの!
これは ジョーにしかわからないと思うのね〜 」
「 ?? なんだい 」
「 あのね。 ジョー。
あなた わたしと初めて出会った時 どんな気分だった? 」
「 へ???? 」
それはあまりにも無防備にあっけらか〜〜んとした調子で発せられた質問だったので
ジョーは 一瞬我が耳を疑ったくらいだ。
初めて出会った時 って。
そ そんな 気軽に明る〜く言う??
ぼく達の 出会いって ・・・
どこかの街角で偶然ぶつかったわけでも
キャンパスですれ違って どき♪ としたわけでも
合コンで 気が合った なんてもんでも
トモダチの紹介で とかでも
・・・ ない! んだぜ??
あんなロクでもない 思い出したくもない
最低最悪のシチュエーションで
硝煙の匂いまでする ・・・ あの時のことを
どんな気分だったあ?
なんて言えるかよ ???
「 ・・・ さ さあ ・・・ 」
「 え さあ〜って もしかして もう忘れちゃった わけ?? 」
「 あ あ〜〜〜 そういうわけでも ・・・ 」
「 そう? じゃあ 教えて! あの時 どんな気分だったの?? 」
「 あのう さあ フラン。
聞いても いい? 」
「 わたし 質問してるんですけど〜〜
ま いいわ。 なあに 」
「 あのう ― どうして その質問をするのかな って思って。 」
「 その質問? 」
「 そ。 出会った時に〜〜 云々 って さ。 」
「 あら なあんだ そんなコト・・・
あ〜 そうだわ まだジョーに報告してなかったわね?
次に舞台でねえ 『 白鳥〜 』 の グラン・アダージオ が
回ってきたの。 それもね〜〜 タクヤとなのよぉ
わたし 困ってるの。 ジョー 相談に乗って〜〜 」
「 ・・・ あ え〜と。 それって なに?
ぐらんあ ?? ってタイトルなの? 」
「 え。 」
フランソワ―ズは絶句して 彼女の夫の顔をまじまじと見つめた。
< それって なに > って なに???
・・・ あ そっか・・・
このヒト、 ふつ〜のヒト なんだっけ・・
― しょうがない か ・・・
「 あ そっか わからないわよねえ。 あのね・・・ 」
フランソワーズはかなりの早口で ↑ ( 冒頭 ) の説明を
イッキに捲し立てた。
「 ・・・ な ワケなの。 だからね 参考として教えてほしいのよ。
オトコノコは 運命のヒト に最初に出会った時
どんな風な気持ちなの? 」
にこやか〜〜〜 な表情だ けど。
彼女の口調を聞いていれば いくらジョーでも気付いていた。
あ。 機嫌 ワル〜〜〜★ だな
そして 彼のアタマの中に残ったコトといえば
愛の踊り を アイツと!
あの野郎と踊る だってぇ???
あの・イケメン野郎 と?!
という怒り? 嫉妬? ・・・ ようするに負の感情だけ だった・・・
この時点で ジョーは < 負け > を喫してるわけだ。
「 あ そうなんだ? ふうん タクヤ君とねえ 」
「 だから そう言ったでしょう?
わたしが教えて欲しいのはね 男性が 運命の相手だ!って
思うヒトと出会った時って どんな気分なのってこと。 」
「 あ〜 なるほどね ・・・ 女性諸君にはわからないよな 」
「 そうです、ですからね 」
「 あ〜〜 それを知ってどうするつもりですか 奥さん 」
「 え・・・? だから 彼の感情に合わせた動きとか
表情をしないと ・・・ 」
「 ああ そうか。 うん ・・・ 踊りは演劇の一種でもあるからね 」
「 そうです、ちゃんとわかっているんでしょう? だから 」
「 それなら 我らが仲間の 名優氏 に尋ねた方がいいと思いますが 」
「 ・・・ それはわかってます。
でもね わたしはごく普通の一般的な男性の気持ちを知りたいの。 」
「 ごく普通の、 ねえ ・・・ 」
おいおいおい〜〜〜〜〜
ぼく達は ごく普通の一般的な男女 として
ごく普通のシチュエーションで
ごく普通に出会った
・・・ のじゃない ぞ!!
「 そうよ。 タクヤもねえ ごく普通のオトコノコだし
ジョーは どんな気分だった??
わたし 今まで聞いたことないかも〜〜〜〜 よ? 」
「 そっか ・・・ 」
「 うん 教えて! 」
「 じゃあ ― 言うけど 」
「 ええ。 」
「 あの時 ― 逆光でヒトの顔は判別つきませんでした。 以上 」
「 え ・・・ 」
「 ぼくが 意識したのは きみの声 だけです。 」
「 声 ・・・? 」
「 そ。 顔は よくみえなかった。 」
「 ― 009がそんな言い訳って あり? 」
「 え? 」
「 え じゃないでしょう? 009なんでしょ?
最強最新型なんでしょ? わたし達皆の能力のイイトコ取り して
改造してあるんでしょ? それが サイボーグ009 よね? 」
「 ・・・ え あ う〜〜〜 まあ そう らしいけど? 」
「 それなら バレバレのウソ つかないで。
正直に話して欲しいわ。 ねえ これって。
わたし達の出会い よ? 今の生活につながる大切な第一歩よ?
真摯に対応して頂きたいと思いますわ 貴方の妻として。 」
「 ・・・ う ・・・ 」
「 う? 」
「 ( え〜〜い なんでもいいから 言っちゃえ! )
うううう 運命の・・・ そう 運命を感じました! 」
「 まあ そう? そうよねえ・・・ 普通 そうよねえ〜
う〜〜ん ・・・? 」
彼女は またまた額に縦皺 で考え込んでしまった。
「 ・・・ あ あの? なんか 気に障ること 言った? ぼく・・・ 」
「 ・・・ へ? あ ああ ジョー ・・・
はやく寝ないと 湯冷めするんじゃない? 」
「 え ・・・ あのう〜〜 今さっききみの質問に答えたんだけど・・」
「 あ ・・・ そうだったわね〜〜 ありがと♪
参考になるわ〜〜 うふふ タクヤといい踊りができるかも 」
「 あ ・・・ そ そうなんだ? 」
「 そうよう〜〜 うふふ わたしにはジョーがいるから安心よ♪
あら ごめんなさ〜〜い いつまでも引き留めて・・・
さ 休みましょ。 あ チビ達 ・・・ 」
「 ああ さっき風呂上がりに子供部屋 覗いてきた。
すぴかは ま〜た はみ出してて すばるは もぐり込んでたから
適正な位置に直しといたよ 」
「 あら ありがとう〜〜 さすがジョー ♪
あ い し て る♪ んふ〜〜〜〜 ( ちゅ ) 」
フランソワーズは彼女の夫の唇に かる〜〜くキスを落とすと ―
じゃあ おやすみなさ〜〜〜い と 羽根布団に包まってしまった。
そして ものの一分も経たないうちに ・・・
す〜〜〜〜 ・・・・ す〜〜〜〜〜 ・・・・
彼女は実に健康な寝息を立てはじめ 完全に睡眠に落ちた。
「 ・・・ フラン? あのう〜〜〜 さ 」
ジョーは 彼女とごくごくプライベートな接触を試みたく
ひじょ〜〜〜に熱心に その寝顔を見つめていた が。
・・・ 完全ねおち だ ・・・
も〜 こうなるとずえったい 起きないんだよなあ・・・
「 〜〜〜 ん ・・・ ジョー ・・・おや すみ ・・・ 」
微かに寝言が 聞こえたのみ。
あ。 あ ああ お おやすみ ・・・
はあ〜〜〜〜 ・・・ ふか〜いため息を付く。
「 ・・・ ぼくも 寝よっと ・・・ 」
がさ ごそ。 ジョーは被っていたバス・タオルをもぞもぞとはずし
ハンガーに掛けると すごすご・・・ ベッドの反対サイドに潜り込んだ。
ホントは彼女とぴったりくっついて眠りたい。
二匹の仲良しわんこ や にゃんこ みたいに・・・
けれど それは とても危険なことなのだ!
少し離れて眠ること。 ― 夜中に蹴飛ばされないための自衛策だ。
新婚のころ、まったく無防備に彼女を半分抱いて眠っていて。
どかっ!! ?!! うわ〜〜〜 な なんだ???
突然 蹴り上げられ ジョーは飛び起きた。
「 ! 敵襲か? 」
咄嗟に臨戦態勢をとったが ―
「 ・・・・ す〜〜〜〜〜〜 」
彼の隣では彼の愛妻が しごく穏やか〜〜〜な寝息をたてているだけだった。
「 ・・・? ふ フラン・・・? 」
ジョーはショックを隠せず しばらく彼女の様子を伺っていたが・・・
やがて 諦めて ( 少し離れて ) 眠った。
あ〜〜 あの時は本当にびっくりだったよなあ・・・
翌日も全然覚えてないっていうしさ
その翌朝・・・・ ジョーは イチバンで訊ねたのだが。
「 え。 蹴飛ばした? あら〜〜 ごめんなさ〜〜い
・・・ で ジョー 生きてる? やっぱりサイボーグねえ 」
「 ??? どういうことさ 」
「 あのねえ ダンサーのヒト蹴りは バッファローも斃すって
言われてるのよぉ・・・ ヤバいとこに当たったら マジ ヤバい 」
「 そ ・・・ そうなんだ・・・? 」
「 う〜ん 全然覚えてないのね〜 なんか 無意識に脚 動いちゃうのよ
わたし達って 」
「 ・・・ わ わかった ( ごくり ) 」
― それ以来 熟睡する時の 過度な密着 は 避けている。
それでも カノジョはジョーの最愛のヒトであり宝モノなのだけれど。
ジョーは 彼女の寝顔を少し離れて眺める。
「 ・・・ あ〜 可愛いなあ ・・・ ぼくのフランソワーズ♪
ねえ 知ってるかな〜〜 フラン ・・・
そりゃ きみの仕事のことはよ〜〜くわかってるさ。
愛の踊りを踊って 観客を魅了するのもきみの仕事だろ。
わかってる。 」
ふう〜〜〜 また ふか〜〜いため息だ。
「 ぼく きみが大好きなんだ 笑うなよ〜〜 ほっんとに。
だから きみの仕事はちゃんと理解してる つもり さ。
− けど。 けど ・・・ なあ
きみは さ。 ぼくには決して見せたことない笑顔で
アイツと踊るんだぜ? 気がついてるかなあ 」
ジョーは ごくプライベートで 彼だけしか知らない彼女の笑みや
吐息をよ〜〜くわかっているけれど。 けど けど けど。
あの笑顔 ・・・ ぼくは 知らないぜ?
何回も彼女の舞台を観ていて ― ジョーは気付いたのだ。
ジョーの大事な宝モノが 輝く笑顔をパートナーの男性に向けていることに。
・・・ ! な なんなんだ???
そんな笑顔 初めて見るよ??
思わず問い詰めたい衝動に駆られたけど ― ぐっと呑みこんだ。
これは 彼女の仕事なんだ 職業なんだから と自分自身を宥めた。
「 ・・・ こんなコト 直接聞けないしなあ・・・
あ〜〜〜 もう〜〜〜
アイツにあの笑顔を向けるのかあ ・・・ う〜〜〜〜〜 」
舞台人の夫としてすぱっと割り切り 余裕の笑顔で鷹揚に頷き ―
「 頑張りたまえ。 きみの笑顔は最高だからね。
その魅惑をアイツに見せつけてやったらいい 」
― くらいのセリフを言えたら・・・とは思う。 思う が。
「 ・・・ う〜〜〜〜 ・・・
だけどさあ ぼく、演技力ゼロだし? そんなセリフ、
無理して言おうとしても 噛んじゃうのがオチだしなあ ・・・ 」
そして さらにさらに困ったことには!
ジョーは 舞台で光の中で踊っている彼女 が別の意味で大好きなのだ。
そう ― 彼は フランソワーズ・アルヌールの大ファン を自認している。
ねえ フラン ・・・
ぼく さ あの さ
踊ってるきみも ウチで待ってくれるきみも
・・・ へへ ぼくの腕の中のきみも♪
みぃ〜〜〜んな 大好きなんだよ〜〜〜〜〜
「 ごめん ・・・ ちこっとウソ 言ったよ ・・・
初めてきみと会った時 あのクソ忌々しい島でのあの時。
ちゃ〜〜〜んと きみの顔 見えてたさ。
実は ― きみの顔しか 見てなかったんだ〜〜〜
あの時 ・・・ 皆がなんかかんか言ってたけど 全然聞こえてなくて。
ぼく 覚えてるのって
009。 あなたも一緒にいらっしゃい
あの一言だけなんだ。 きみの声に ふらふら〜〜 付いていっちゃったさ。
・・・ ねえ フラン? こっそり教えるね。
オトコはね 一目出逢ったその日から恋に落ちる 動物なんだ・・・
なあ フラン ・・・ わかってる? 」
ジョーの切々とした告白? なんかま〜〜〜〜ったく知る由もなく
全く無防備に フランソワーズはす〜〜す〜〜眠っている。
「 ・・・ ふう ・・・ 」
ジョーは 何十回目かのため息を吐く。
「 ありがと、ぼくの側にいてくれて。 ありがと ぼくと結婚してくれて。
ありがと ぼくのコドモ達を産んでくれて。 」
ちゅ。 身を乗り出し 彼の妻の唇に軽く触れる。
「 ・・・ おやすみ フラン ・・・ よい夢を ・・・
ああ 夢でもいいからさ ぼくと一緒にいてくれよ ・・・ 」
彼女の健康な寝息を子守唄にして ジョーは眠りに落ちるのだった。
「 やあ 諸君、おはよう 」
山内タクヤ君が なんだかかなり古典的なセリフを ばら撒いている。
突然 声を掛けられた同僚たちは皆 思わず振り返る。
そして 声の主をまじまじと見つめてしまう。
!?へ? ・・・ あ ああ おはよう
ああ? タクヤ?! ナンかあったか??
え。 やだ〜〜どしたのよぉ タクヤくん〜
「 おう 諸君も元気でなにより ・・・
さあ 今日も奮励努力して よい舞台を務めるよう励もうではないか。 」
どこかの国の 王子サマ の如く遍く四方に目線と笑みを配り
山内タクヤ君は ゆったりした足取りで バレエ団の建物に入っていった。
は あ ・・・?
・・・ タクヤさん ・・・大丈夫かなあ
ちょっと〜〜 病院、行ったほうがいいんでないの?
朝のレッスンにやってきたダンサー達は 遠巻きに彼をながめ沈黙し
若いコ達は す・・・っと目を伏せる。
バレエ団のロビーから 更衣室 そして スタジオ は
なんともびみょう〜〜〜な 静けさが蔓延し始めた。
「 う〜〜ん 今朝も朝メシ しっかり食ってレッスンに励もう! 」
かなりはっきりした・独り言 を吐き 彼はいとも優雅にストレッチをする。
・・・ そう 指先まで神経を配って・・・
ふ ふん ・・・ 王子サマ だからな。
今で言えばよ、究極のジェントルマン だろ?
そんなら まずは なり切ってみる からだ!
昨日からさんざん悩み ( 彼なりに ) あれこれ考えた。
「 王子サマ ― って なんだ?
ふん ・・・ 残念ながら 俺には王子サマのおトモダチは
いね〜〜んだよぉ ・・・ 」
半分不貞腐れた気分にもなりかけたが。 が。
お ・・・ ?
何気な〜く見ていた動画で 昨今流行っているCMが流れた。
コスプレ風、でも ちゃんとストーリーがあって
なかなかオモシロイ。
ふ〜ん 人気 出るわけだよなあ〜
・・・ んん?
ふとコスプレした人物に目を留めた。 ふつ〜のアイドルだろうけど
なんか日常とは 違う。
あ。 このコスプレのせいか?
・・・ な〜るほど〜〜 < その気 > に
なるための ヘンシンベルト なんだあ?
俺も ― 必要 かも。
「 ― おし。 決めた〜〜 」
タクヤは 声に出して自分自身に言い聞かせた。
<ジェントルマン> を目指すために外側から決めてみることにしたのだ。
そうだよ!
日常から 王子サマ を演じてみればいいんだ!
「 ふ〜〜ん ふんふん ・・・ 調子いいな〜〜
今日はばっちり自習して振り固め かな。
ふふ〜〜ん さ ・・・・いこうの王子 踊るぜ! 」
その朝の稽古場は 妙〜〜〜に静かだった ・・・
「 おはよう。 さあ 始めますよ。 」
いつもと同じ声音で いつもと同じパワーを溢れさせ
マダムが スタジオに入ってきた。
寝そべったり バーを持ち上げていたダンサー達は さ・・・っと
立ち上がり衣を正す。
「 ・・・・ 」
全員で レヴェランスをし ピアニストさんも ぽ〜〜ん♪と音で応える。
「 はい じゃ 二番から〜〜〜 」
♪♪ ♪ 〜〜〜〜〜 流麗な音とともにダンサー達は
バーレッスンを始める。
「 え〜〜 ワン〜で出して倍で二回、そのまま前へ ・・・
アームス つけてね〜〜〜 これを 前 横 後ろ。
あ 続けないから 一回 音 切ってね?
それから反対側ね はい どうぞ 」
マダムは要所 要所で 指示をだし スタジオ中を回りつつ
簡単に注意をしてゆく。
ダンサー達は 指示通りに動き身体を引き上げまとめてゆくのだ。
「 ・・・ちょっと 上がりすぎ〜〜 そう ね?
ねえ みちよ〜〜 息 して! そう ・・・ 」
レッスンは澱みなく続いて行き ― センター・ワークに移る。
ガタガタ ・・・ ゴソゴソ・・・・
全員で移動バーを片づけ さささっと床に散った汗を拭きとり ・・・
急いで着替えるヒト 水分補給やらトイレやら
ひとしきり スタジオ内はごたごたするのが通例だ。
マダムは たいてい のんびりとピアニストさんと雑談したり
花瓶の花の具合を眺めたりしているが ―
今朝は なにげな〜くある男子に声をかけた。
「 ね タクヤ? ヘア・スタイル 変えたの?
・・・ ねえ なんかあった? 」
「 へ??? え べつに〜〜 なんもないっす
あ。 え〜 いえ。 特になにもありません。
ご心配おかけして申し訳ありません 」
汗を飛ばしていた彼は 突然。 ぴ! っと姿勢を正したのだ。
「 ??? そ そう? なら いいけど ・・・ 」
ちょいと首を傾げつつ マダムはピアノの前に戻っていった。
「 ふ ふ〜〜〜 」
タクヤは汗を拭い 鏡を見つめ髪の乱れと弛んでいたレッグ・ウオーマーを
引き上げ ― 濡れてTシャツを新しいのと着替えた。
へ え〜〜〜〜? ふうん ・・・? どうしたん?
周囲は またまた引き気味であるが ― 本人は全く気に留めていない。
俺は! 最高の王子を踊るんだっ!
だから 日常から 王子サマ になる。
固く 固く決心しているのだ ・・・
「 ・・・ はあ ・・・ 」
反対側の隅で 金髪美女がこそ・・・っとため息を吐いた。
「 フランソワーズ? どしたの 」
「 え あ ・・・ うん なんでも ・・・ 」
「 ・・なんでもなくない よ その顔 」
「 ・・・ ウン ・・・ あのヒトと パ・ド・ドウ かあ・・・
って思ったら なんか ― 胃が痛い ・・・・ 」
「 あ? ・・・・ ああ そだねえ ・・・ 」
隣の丸顔は彼女の視線の先を辿り ― やっぱり同情の吐息をこぼしていた。
レッスンは 順調に進んでゆく。
誰かのため息と 誰かの鼻息と 誰かの笑みと 誰かの涙と
み〜〜〜んなひっくるめて ― いい踊りを踊ために !
・・・ 踊れる かなあ ・・・
ああ どんな戦闘も もっとリラックスしてたわ
わたし ・・・
フランソワーズ・アルヌールさんは タオルの陰に不安を隠していた。
Last updated : 09.28.2021.
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********* 途中ですが
三人三様 いろいろ悩んでいますが ・・・・
どうぞ 生温かく見守ってやってくださいませ <m(__)m>
・・・ また 続きます〜〜〜〜〜 ★
あ ダンサーのヒト蹴りは バッファローも斃す って
本当のことですよ〜〜 (^_-)-☆