『 踊って頂けますか?  ― (2) ―  』

 

 

 

 

え〜〜〜〜 まず お話の続きの前に 主人公たちがおたおたしている

< グラン・アダージオ > について さらっと解説します☆

 

グラン・アダージオ とは ―

『 白鳥の湖 』 の第二幕で踊られる ジークフリート王子と

オデット姫の パ・ド・ドウです。

えっと 『 白鳥〜 』は 全4幕 でして 大雑把に言えば

1・3幕 が 人間界の話 2・4幕が 白鳥達の世界での話 です。

ですから 出演ダンサーが   「 ワタシ 今回は2・4〜 」といえば

白鳥たちを踊る ということで 「 1・3 なの〜 」 なら 

貴族の娘たちやら各国の踊りを担当、ということです。

オデットさんは 普通 1・3幕には登場しません。

三幕で 影 としてでるけど別のヒトがやることが多いです。

オディール ( 黒鳥 )としては踊りますけどね。

( 筆者は 全幕通しで出演したことがありますが

 早変わりの連続〜〜〜 で もうヘトヘトでしたにゃ・・・ )

 

さて 話題の グラン・アダージオ ですが。

これは 形式的には グラン・パ・ド・ドウ ではなく

二人が踊るアダージオだけ そして 所謂超絶技巧的なテクは

ありません。  しかし! 長い〜〜〜〜 そして

個人のワザとは違う パ・ド・ドウのテクニックが必要です。

 

そして これは 出会ったその日から恋の花が咲いちゃった王子サマ と

悪魔の呪いで白鳥にされて 夜の間だけニンゲンに戻れる白鳥族を

統べる お姫サマ との 愛の踊り なのです。

 

パ・ド・ドウ は 文字通り < 二人の作業 >。

サポートやリフトは 二人の共同作業 で どちらかが引っ張ったり

チカラ尽くで持ち上げたり 回したりしているのでは ないのです。

 

  つまり 二人のイキが合わないと・・・ 大変★★★

 

そして上手く噛み合った時の踊りは それぞれの力量以上の

ものとなり もうさいこ〜〜〜♪ なのです。

 

あのですね。 クラシック・バレエ って ただひらひらしてる のじゃ

ないのですよぉ〜〜〜〜〜〜 舞台 観てくださあい ('')

 

 

         ************************

 

 

  ふ〜ん ふんふん♪  

 

ジョーは 上機嫌でバス・ルームから戻ってきた。

「 あ〜〜 さっぱり〜〜〜   うん? 」

バスタオルでがしがし髪を拭きつつ 寝室のドアを開けた のだが・・・

 

「 う〜〜〜ん ・・・ ここで し〜っかり支えてくれれば

 パンシェ〜〜〜 も ギリまでやれるわねえ 

 よ・・・・っと 〜〜〜 」

 

彼の愛妻は ベッドの前で高々と脚を後ろに上げている。

パジャマのズボンは上にたくしあがり 白い素脚がくっきり。

 

     だ  だはは 〜〜〜〜

     ・・・ これは お誘い か?

 

そりゃ 彼は彼女の夫であるから 細君の <白い脚> を

見る機会は多々あるわけだし ソレに触ってもキスしても

まったく構わない  のだれど。

予期せぬ時に 予期せぬ場所で 目の前に現れれば ―

やはり  どっきり♪ なのである。

 

「 う わ・・・?? な な なんだ〜〜〜 」

「 ふんふ〜〜ん ・・・ と。   あら ジョー 

 お風呂 いい感じに熱かった? 」

「 え ・・・ あ ああ 風呂?  あ うん よかったよ 」

「 そう?  よかったわあ〜〜 もう休む? 」

「 あ  え〜とぉ ・・・ き きみは? 

「 う〜ん もうちょっと自習しててもいいかしら 

 音はたてないようにするから 」

「 ・・・ じ 自習??  あのう〜〜〜? 

 その・・・ 脚をあげる練習なのかい 」

「 へ???  ・・・ ああ そうじゃなくて

 あのね こんどの公演の〜〜 振り付けを確認していたのよ 」

「 あ ああ  そっか・・・ ( ちょっとほっとしたけど

 ちょっと残念な気分・・・・ ) 」

「 あ そうだわ! 実はね〜 

 是非是非ジョーに聞いてみたいことがあるの!

 これは ジョーにしかわからないと思うのね〜  」

「 ?? なんだい 」

「 あのね。  ジョー。

 あなた わたしと初めて出会った時  どんな気分だった? 

「 へ???? 

それはあまりにも無防備にあっけらか〜〜んとした調子で発せられた質問だったので

ジョーは 一瞬我が耳を疑ったくらいだ。

 

      初めて出会った時 って。

      そ そんな 気軽に明る〜く言う??

 

      ぼく達の 出会いって ・・・

      どこかの街角で偶然ぶつかったわけでも

      キャンパスですれ違って どき♪ としたわけでも

      合コンで 気が合った なんてもんでも

      トモダチの紹介で とかでも 

      ・・・ ない! んだぜ??

 

      あんなロクでもない 思い出したくもない

      最低最悪のシチュエーションで

      硝煙の匂いまでする ・・・ あの時のことを

 

        どんな気分だったあ?  

 

      なんて言えるかよ ???

 

「 ・・・ さ  さあ ・・・ 」

「 え  さあ〜って もしかして もう忘れちゃった わけ?? 」

「 あ あ〜〜〜 そういうわけでも ・・・ 」

「 そう? じゃあ 教えて!  あの時 どんな気分だったの?? 」

「 あのう さあ  フラン。 

 聞いても いい? 」

「 わたし 質問してるんですけど〜〜  

 ま いいわ。 なあに 」

「 あのう ― どうして その質問をするのかな って思って。 」

「 その質問? 」

「 そ。 出会った時に〜〜 云々 って さ。 

「 あら なあんだ そんなコト・・・ 

 あ〜 そうだわ まだジョーに報告してなかったわね? 

 次に舞台でねえ 『 白鳥〜 』 の グラン・アダージオ が

 回ってきたの。 それもね〜〜 タクヤとなのよぉ

 わたし 困ってるの。 ジョー 相談に乗って〜〜 

「 ・・・ あ  え〜と。 それって  なに?

 ぐらんあ ?? ってタイトルなの?  」

「 え。 」

フランソワ―ズは絶句して 彼女の夫の顔をまじまじと見つめた。

 

     < それって なに > って なに???

 

     ・・・ あ  そっか・・・

     このヒト、 ふつ〜のヒト なんだっけ・・

 

     ― しょうがない か ・・・

 

「 あ そっか わからないわよねえ。 あのね・・・ 」

フランソワーズはかなりの早口で ↑ ( 冒頭 ) の説明を

イッキに捲し立てた。

「 ・・・ な ワケなの。 だからね 参考として教えてほしいのよ。

 オトコノコは 運命のヒト に最初に出会った時

 どんな風な気持ちなの? 」

にこやか〜〜〜 な表情だ  けど。

彼女の口調を聞いていれば いくらジョーでも気付いていた。

 

     あ。  機嫌 ワル〜〜〜★ だな

 

そして 彼のアタマの中に残ったコトといえば

 

     愛の踊り を アイツと! 

     あの野郎と踊る だってぇ???

 

     あの・イケメン野郎 と?!

 

という怒り? 嫉妬? ・・・ ようするに負の感情だけ だった・・・

この時点で ジョーは < 負け > を喫してるわけだ。

 

「 あ そうなんだ? ふうん タクヤ君とねえ 

「 だから そう言ったでしょう?

 わたしが教えて欲しいのはね 男性が 運命の相手だ!って

 思うヒトと出会った時って どんな気分なのってこと。 」

「 あ〜 なるほどね ・・・ 女性諸君にはわからないよな 」

「 そうです、ですからね 

「 あ〜〜 それを知ってどうするつもりですか 奥さん 」

「 え・・・?  だから 彼の感情に合わせた動きとか

 表情をしないと ・・・ 」

「 ああ そうか。 うん ・・・ 踊りは演劇の一種でもあるからね 」

「 そうです、ちゃんとわかっているんでしょう? だから 」

「 それなら 我らが仲間の 名優氏 に尋ねた方がいいと思いますが 」

「 ・・・ それはわかってます。 

 でもね わたしはごく普通の一般的な男性の気持ちを知りたいの。 」

「 ごく普通の、 ねえ ・・・ 」

 

     おいおいおい〜〜〜〜〜

     ぼく達は ごく普通の一般的な男女 として

     ごく普通のシチュエーションで

     ごく普通に出会った  

 

      ・・・ のじゃない ぞ!!

 

「 そうよ。 タクヤもねえ ごく普通のオトコノコだし 

 ジョーは どんな気分だった??  

 わたし 今まで聞いたことないかも〜〜〜〜 よ? 」

「 そっか ・・・ 」

「 うん 教えて! 」

「 じゃあ  ―  言うけど 」

「 ええ。 」

「 あの時 ― 逆光でヒトの顔は判別つきませんでした。 以上 」

「 え ・・・ 」

「 ぼくが 意識したのは きみの声 だけです。 」

「 声 ・・・? 」

「 そ。 顔は よくみえなかった。 」

「 ― 009がそんな言い訳って あり? 」

「 え? 」

「 え じゃないでしょう? 009なんでしょ?

 最強最新型なんでしょ? わたし達皆の能力のイイトコ取り して

 改造してあるんでしょ?  それが サイボーグ009 よね? 」

「 ・・・ え  あ  う〜〜〜  まあ そう らしいけど? 」

「 それなら バレバレのウソ つかないで。 

 正直に話して欲しいわ。  ねえ これって。 

 わたし達の出会い よ? 今の生活につながる大切な第一歩よ?

 真摯に対応して頂きたいと思いますわ 貴方の妻として。 」

「 ・・・ う  ・・・ 」

「 う? 」

「 ( え〜〜い なんでもいいから 言っちゃえ! )

 うううう 運命の・・・ そう 運命を感じました! 」

「 まあ そう? そうよねえ・・・ 普通 そうよねえ〜

 う〜〜ん ・・・? 」

彼女は またまた額に縦皺 で考え込んでしまった。

「 ・・・ あ あの? なんか 気に障ること 言った? ぼく・・・ 」

「 ・・・ へ?  あ ああ ジョー ・・・

 はやく寝ないと 湯冷めするんじゃない? 

「 え ・・・ あのう〜〜  今さっききみの質問に答えたんだけど・・」

「 あ ・・・ そうだったわね〜〜 ありがと♪

 参考になるわ〜〜  うふふ タクヤといい踊りができるかも 

「 あ ・・・ そ そうなんだ? 

「 そうよう〜〜 うふふ わたしにはジョーがいるから安心よ♪

 あら ごめんなさ〜〜い いつまでも引き留めて・・・

 さ 休みましょ。  あ チビ達 ・・・ 」

「 ああ さっき風呂上がりに子供部屋 覗いてきた。

 すぴかは ま〜た はみ出してて すばるは もぐり込んでたから

 適正な位置に直しといたよ 」

「 あら ありがとう〜〜 さすがジョー ♪

 あ い し て る♪  んふ〜〜〜〜  ( ちゅ ) 」

フランソワーズは彼女の夫の唇に かる〜〜くキスを落とすと ―

 じゃあ おやすみなさ〜〜〜い   と 羽根布団に包まってしまった。

そして ものの一分も経たないうちに ・・・

 

  す〜〜〜〜 ・・・・ す〜〜〜〜〜 ・・・・

 

彼女は実に健康な寝息を立てはじめ 完全に睡眠に落ちた。

「 ・・・ フラン?  あのう〜〜〜 さ 」

ジョーは 彼女とごくごくプライベートな接触を試みたく

ひじょ〜〜〜に熱心に その寝顔を見つめていた が。

 

    ・・・ 完全ねおち だ ・・・

    も〜 こうなるとずえったい 起きないんだよなあ・・・

 

「 〜〜〜 ん ・・・ ジョー ・・・おや  すみ ・・・ 」

微かに寝言が 聞こえたのみ。

 

    あ。  あ ああ  お おやすみ ・・・

 

はあ〜〜〜〜 ・・・ ふか〜いため息を付く。

「 ・・・ ぼくも 寝よっと ・・・ 」

 がさ ごそ。  ジョーは被っていたバス・タオルをもぞもぞとはずし

ハンガーに掛けると  すごすご・・・ ベッドの反対サイドに潜り込んだ。

ホントは彼女とぴったりくっついて眠りたい。

二匹の仲良しわんこ や にゃんこ みたいに・・・

けれど それは とても危険なことなのだ!

 

  少し離れて眠ること。 ― 夜中に蹴飛ばされないための自衛策だ。

 

新婚のころ、まったく無防備に彼女を半分抱いて眠っていて。

 

   どかっ!!   ?!! うわ〜〜〜  な なんだ???

 

突然 蹴り上げられ ジョーは飛び起きた。

「 ! 敵襲か? 」

咄嗟に臨戦態勢をとったが ―

「 ・・・・ す〜〜〜〜〜〜 」

彼の隣では彼の愛妻が しごく穏やか〜〜〜な寝息をたてているだけだった。

「 ・・・? ふ フラン・・・? 」

ジョーはショックを隠せず しばらく彼女の様子を伺っていたが・・・

やがて 諦めて ( 少し離れて ) 眠った。

 

    あ〜〜  あの時は本当にびっくりだったよなあ・・・

    翌日も全然覚えてないっていうしさ

 

 

その翌朝・・・・ ジョーは イチバンで訊ねたのだが。

「 え。 蹴飛ばした?  あら〜〜 ごめんなさ〜〜い

 ・・・ で  ジョー 生きてる? やっぱりサイボーグねえ 」

「 ??? どういうことさ 」

「 あのねえ ダンサーのヒト蹴りは バッファローも斃すって

 言われてるのよぉ・・・ ヤバいとこに当たったら マジ ヤバい 」

「 そ ・・・ そうなんだ・・・? 」

「 う〜ん 全然覚えてないのね〜 なんか 無意識に脚 動いちゃうのよ 

 わたし達って 」

「 ・・・ わ わかった ( ごくり ) 」

― それ以来 熟睡する時の 過度な密着 は 避けている。

 

それでも カノジョはジョーの最愛のヒトであり宝モノなのだけれど。

ジョーは 彼女の寝顔を少し離れて眺める。

「 ・・・ あ〜  可愛いなあ ・・・ ぼくのフランソワーズ♪

 ねえ 知ってるかな〜〜 フラン ・・・

 そりゃ きみの仕事のことはよ〜〜くわかってるさ。

 愛の踊りを踊って 観客を魅了するのもきみの仕事だろ。

 わかってる。 」

 

     ふう〜〜〜    また ふか〜〜いため息だ。

 

「 ぼく きみが大好きなんだ 笑うなよ〜〜 ほっんとに。

 だから きみの仕事はちゃんと理解してる つもり さ。

    − けど。 けど ・・・ なあ

 きみは さ。 ぼくには決して見せたことない笑顔で

 アイツと踊るんだぜ?  気がついてるかなあ 」 

 

ジョーは ごくプライベートで 彼だけしか知らない彼女の笑みや

吐息をよ〜〜くわかっているけれど。 けど けど けど。

 

    あの笑顔 ・・・ ぼくは  知らないぜ?

 

何回も彼女の舞台を観ていて ― ジョーは気付いたのだ。

ジョーの大事な宝モノが 輝く笑顔をパートナーの男性に向けていることに。

 

    ・・・ !  な なんなんだ???

    そんな笑顔 初めて見るよ??

 

思わず問い詰めたい衝動に駆られたけど ― ぐっと呑みこんだ。

これは 彼女の仕事なんだ 職業なんだから と自分自身を宥めた。

「 ・・・ こんなコト 直接聞けないしなあ・・・

 あ〜〜〜  もう〜〜〜  

 アイツにあの笑顔を向けるのかあ ・・・ う〜〜〜〜〜 」

 

舞台人の夫としてすぱっと割り切り 余裕の笑顔で鷹揚に頷き ―

「 頑張りたまえ。 きみの笑顔は最高だからね。

 その魅惑をアイツに見せつけてやったらいい  」

 ― くらいのセリフを言えたら・・・とは思う。 思う が。

「 ・・・ う〜〜〜〜 ・・・

 だけどさあ ぼく、演技力ゼロだし? そんなセリフ、

 無理して言おうとしても 噛んじゃうのがオチだしなあ ・・・ 」

そして さらにさらに困ったことには!

ジョーは 舞台で光の中で踊っている彼女 が別の意味で大好きなのだ。

 

そう ― 彼は フランソワーズ・アルヌールの大ファン を自認している。 

 

    ねえ  フラン ・・・

    ぼく さ  あの さ

    踊ってるきみも ウチで待ってくれるきみも

    ・・・ へへ ぼくの腕の中のきみも♪

 

    みぃ〜〜〜んな 大好きなんだよ〜〜〜〜〜

 

「 ごめん ・・・ ちこっとウソ 言ったよ ・・・

 初めてきみと会った時 あのクソ忌々しい島でのあの時。

 ちゃ〜〜〜んと きみの顔 見えてたさ。

 実は ― きみの顔しか 見てなかったんだ〜〜〜

 あの時 ・・・ 皆がなんかかんか言ってたけど 全然聞こえてなくて。

 ぼく  覚えてるのって

 

     009。 あなたも一緒にいらっしゃい 

 

 あの一言だけなんだ。 きみの声に ふらふら〜〜 付いていっちゃったさ。

 ・・・ ねえ フラン? こっそり教えるね。

 オトコはね  一目出逢ったその日から恋に落ちる 動物なんだ・・・

 なあ フラン ・・・ わかってる? 」

 

ジョーの切々とした告白? なんかま〜〜〜〜ったく知る由もなく

全く無防備に フランソワーズはす〜〜す〜〜眠っている。

 

「 ・・・ ふう ・・・ 」

ジョーは 何十回目かのため息を吐く。

「 ありがと、ぼくの側にいてくれて。 ありがと ぼくと結婚してくれて。

 ありがと ぼくのコドモ達を産んでくれて。 」

 

    ちゅ。  身を乗り出し 彼の妻の唇に軽く触れる。

 

「 ・・・ おやすみ フラン ・・・ よい夢を ・・・

 ああ 夢でもいいからさ ぼくと一緒にいてくれよ ・・・ 」

彼女の健康な寝息を子守唄にして ジョーは眠りに落ちるのだった。

 

 

 

 

「 やあ 諸君、おはよう 」

山内タクヤ君が なんだかかなり古典的なセリフを ばら撒いている。

突然 声を掛けられた同僚たちは皆 思わず振り返る。

そして 声の主をまじまじと見つめてしまう。

 

   !?へ?  ・・・ あ ああ おはよう

   ああ?  タクヤ?!  ナンかあったか??

 

   え。 やだ〜〜どしたのよぉ タクヤくん〜

 

「 おう 諸君も元気でなにより ・・・

 さあ 今日も奮励努力して よい舞台を務めるよう励もうではないか。 」

どこかの国の 王子サマ の如く遍く四方に目線と笑みを配り

山内タクヤ君は ゆったりした足取りで バレエ団の建物に入っていった。

 

   は  あ ・・・?

   ・・・ タクヤさん ・・・大丈夫かなあ 

 

   ちょっと〜〜 病院、行ったほうがいいんでないの?

 

朝のレッスンにやってきたダンサー達は 遠巻きに彼をながめ沈黙し

若いコ達は す・・・っと目を伏せる。

バレエ団のロビーから 更衣室 そして スタジオ は

なんともびみょう〜〜〜な 静けさが蔓延し始めた。

 

「 う〜〜ん 今朝も朝メシ しっかり食ってレッスンに励もう! 

かなりはっきりした・独り言 を吐き 彼はいとも優雅にストレッチをする。

 ・・・ そう 指先まで神経を配って・・・

 

    ふ ふん ・・・ 王子サマ だからな。

    今で言えばよ、究極のジェントルマン だろ?

 

    そんなら まずは なり切ってみる からだ!

 

 

昨日からさんざん悩み ( 彼なりに ) あれこれ考えた。

「 王子サマ  ― って なんだ?

 ふん ・・・ 残念ながら 俺には王子サマのおトモダチは

 いね〜〜んだよぉ ・・・ 」

半分不貞腐れた気分にもなりかけたが。  が。

 

    お ・・・ ?

 

何気な〜く見ていた動画で 昨今流行っているCMが流れた。

コスプレ風、でも ちゃんとストーリーがあって

なかなかオモシロイ。 

 

    ふ〜ん  人気 出るわけだよなあ〜

    ・・・ んん?

 

ふとコスプレした人物に目を留めた。 ふつ〜のアイドルだろうけど

なんか日常とは 違う。

 

    あ。 このコスプレのせいか?

    ・・・ な〜るほど〜〜  < その気 > に

    なるための ヘンシンベルト なんだあ?

 

    俺も ― 必要 かも。

 

「 ― おし。  決めた〜〜 」

タクヤは 声に出して自分自身に言い聞かせた。

<ジェントルマン> を目指すために外側から決めてみることにしたのだ。

 

    そうだよ! 

    日常から  王子サマ を演じてみればいいんだ!

 

 

「 ふ〜〜ん ふんふん ・・・ 調子いいな〜〜

 今日はばっちり自習して振り固め かな。

 ふふ〜〜ん  さ ・・・・いこうの王子 踊るぜ! 」

 

その朝の稽古場は 妙〜〜〜に静かだった ・・・

 

「 おはよう。  さあ 始めますよ。 」

いつもと同じ声音で いつもと同じパワーを溢れさせ

マダムが スタジオに入ってきた。

寝そべったり バーを持ち上げていたダンサー達は さ・・・っと

立ち上がり衣を正す。

「 ・・・・ 」

全員で レヴェランスをし ピアニストさんも ぽ〜〜ん♪と音で応える。

 

「 はい じゃ 二番から〜〜〜 」

  ♪♪  ♪ 〜〜〜〜〜  流麗な音とともにダンサー達は

バーレッスンを始める。

 

「 え〜〜 ワン〜で出して倍で二回、そのまま前へ ・・・

 アームス つけてね〜〜〜 これを 前 横 後ろ。

 あ 続けないから 一回 音 切ってね?  

 それから反対側ね   はい どうぞ 」

マダムは要所 要所で 指示をだし スタジオ中を回りつつ

簡単に注意をしてゆく。

ダンサー達は 指示通りに動き身体を引き上げまとめてゆくのだ。

「 ・・・ちょっと 上がりすぎ〜〜 そう ね?

 ねえ みちよ〜〜 息 して!  そう ・・・ 」

 

レッスンは澱みなく続いて行き ― センター・ワークに移る。

 

  ガタガタ  ・・・ ゴソゴソ・・・・

 

全員で移動バーを片づけ さささっと床に散った汗を拭きとり ・・・

急いで着替えるヒト 水分補給やらトイレやら 

ひとしきり スタジオ内はごたごたするのが通例だ。

マダムは たいてい のんびりとピアニストさんと雑談したり 

花瓶の花の具合を眺めたりしているが ― 

今朝は なにげな〜くある男子に声をかけた。

 

「 ね タクヤ?  ヘア・スタイル 変えたの?

 ・・・ ねえ なんかあった? 

 

「 へ???  え べつに〜〜 なんもないっす

 あ。 え〜 いえ。 特になにもありません。

 ご心配おかけして申し訳ありません 」

汗を飛ばしていた彼は 突然。  ぴ! っと姿勢を正したのだ。

「 ??? そ そう?  なら  いいけど ・・・ 」

ちょいと首を傾げつつ マダムはピアノの前に戻っていった。

 

「 ふ ふ〜〜〜 

タクヤは汗を拭い 鏡を見つめ髪の乱れと弛んでいたレッグ・ウオーマーを

引き上げ ― 濡れてTシャツを新しいのと着替えた。

 

 へ え〜〜〜〜?   ふうん ・・・?   どうしたん?

 

周囲は またまた引き気味であるが ― 本人は全く気に留めていない。

 

     俺は! 最高の王子を踊るんだっ!

 

     だから 日常から 王子サマ になる。

 

固く 固く決心しているのだ ・・・

 

「 ・・・ はあ ・・・ 」

反対側の隅で 金髪美女がこそ・・・っとため息を吐いた。

「 フランソワーズ? どしたの 」

「 え あ ・・・ うん なんでも ・・・ 」

「 ・・なんでもなくない よ その顔 」

「 ・・・ ウン ・・・ あのヒトと パ・ド・ドウ かあ・・・

 って思ったら なんか ― 胃が痛い ・・・・ 」

「 あ? ・・・・ ああ   そだねえ ・・・ 」

隣の丸顔は彼女の視線の先を辿り ―  やっぱり同情の吐息をこぼしていた。

 

レッスンは 順調に進んでゆく。

誰かのため息と 誰かの鼻息と 誰かの笑みと 誰かの涙と

み〜〜〜んなひっくるめて  ―  いい踊りを踊ために !

 

     ・・・ 踊れる かなあ ・・・

     ああ どんな戦闘も もっとリラックスしてたわ 

     わたし ・・・

 

フランソワーズ・アルヌールさんは タオルの陰に不安を隠していた。

 

 

Last updated : 09.28.2021.           back     /     index    /    next

 

 

*********  途中ですが

三人三様 いろいろ悩んでいますが ・・・・

どうぞ 生温かく見守ってやってくださいませ <m(__)m>

・・・ また 続きます〜〜〜〜〜 ★

あ ダンサーのヒト蹴りは バッファローも斃す って

本当のことですよ〜〜  (^_-)-